相続時精算課税制度 なかなか一般の方には言葉は浸透していないかと思います。
今までは制度自体が使いにくい印象があったり、110万円を毎年あげておけば税金かからないんでしょ?といった意見が多かったです。
しかし、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以降の贈与より、新たに改正された相続時精算課税制度を利用することができますので、まずはその内容をこの記事でご説明していきます。
相続時精算課税制度 とは何か
相続時精算課税制度とは、名前の通り、「相続が発生した時に前もって計算した金額を再度精算しますよ」という制度です。
これとは対象によく利用されるのが、年間で110万円以下ならもらっても贈与税がかからない、暦年贈与と言われるものがあります。
暦年贈与の方は、言葉も金額も一般的に浸透している印象です。
参考 国税庁 NO.4103 相続時精算課税の選択
相続時精算課税制度 使える人
あげる側の要件
贈与を行った年の1月1日に60歳以上の父母もしくは祖父母であること。父母もしくは祖父母を直系尊属といいます。
もらう側の要件
贈与を受け取った年の1月1日に18歳以上の者のうち、贈与者の子や孫であること。子や孫を直系卑属といいます。
相続時精算課税制度 メリット
相続時精算課税制度のメリットとしては、以下の4点があげられます。
- 2500万円までの贈与税が非課税であり、超えた分は税率が低い
- あげる人(贈与者)ごとに選べる
- 将来値上がりする財産であれば、値上がりした分得をする
- 相続時にトラブルになることを防ぐことができる
それぞれについてより詳しく説明します。
2500万円までの贈与税が非課税であり、超えた分は税率が低い
この制度の一番のメリットは、累計2500万円までの財産を一度に子や孫にあげることができ、なおかつ、そこで支払う税金がないことです。あげた方が亡くなって相続が発生するときまでは、税金を払わなくても良いのです。
暦年贈与ですと、110万円までが税金のかからない金額範囲です。
金額だけ見ると、お判りいただけるように、一度に大きな財産を移すことが可能です。
また、2500万円の枠を超えた部分は、一律20%の税率で税金を仮払いしておきます。
2500万円以上の金額には、この制度を利用せずにあげると、贈与税は50%から55%かかってきます。
このように、税率が低く抑えられて大きな財産を移すことができるのもメリットです。
あげる人(贈与者)ごとに選べる
もらう側の人(受贈者)は、贈与者ごとに相続時精算課税制度を利用するか、暦年課税制度を適用するかを選べます。
例えば、おじいちゃんとおばあちゃんからは、2500万円づつもらい合計5000万円まで非課税で受け取ることもできますし、おじいちゃんからは相続時精算課税制度を使っておばあちゃんからは暦年課税制度を選択することもできます。
将来値上がりする財産であれば、値上がりした分得をする
相続時精算課税制度を適用した財産は、将来あげた人(贈与者)が亡くなって相続になったときには、贈与時の評価額で相続財産の額と合計して相続税の計算をします。
例えば、今一株100円の株をこの制度を選択しておき、20年後相続が起こったときに一株500円になっていたとしても、一株100円で計算してもよいとなっているのです。
相続時にトラブルになることを防ぐことができる
相続時精算課税制度は一度に大きな財産を移すことができるため、特定の子どもに自分が生きているうちにあげたいなどの希望を反映することができます。
相続時精算課税制度 デメリット
相続時精算課税制度のデメリットとしては、以下の3点があげられます。
- 一度この制度を選択すると暦年課税には戻せない
- 将来値下がりした時には、値下がりした分損をする
- 小規模宅地等の特例の適用を受けられない
それぞれについて詳しく説明します。
一度この制度を選択すると暦年課税には戻せない
一度この制度を選択して贈与を受けた贈与者については、その後暦年課税を適用することができなくなります。したがって、2500万円の限度を使用したあとは、年間110万円以下の贈与でも贈与税がかかってきます。
将来値下がりした時には、値下がりした分損をする
これはメリットの裏返しとなります。将来に相続が発生した時には、贈与があったときの評価額で再度相続税を計算しなおします。したがって、値下がりしてしまっていると、値下がり前の評価額で相続税を計算することになりますので、損をすることも考えられます。
小規模宅地等の特例の適用を受けられない
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすと、土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。相続税の節税の中でも重要な特例となります。
相続時精算課税制度を利用して自宅や事業用に使用している宅地等を動かすことを考えているときには慎重に検討をする必要があります。この制度を使用してからでは相続が発生した時に思わぬ損失を被る恐れがあります。できれば専門家に相談するのがよいでしょう。
相続時精算課税制度 令和5年改正
令和6年1月1日以降の贈与から改正が適用になります。
現行制度
- 非課税枠は2500万円(特別控除)
- 制度を選択した年以降の贈与財産はすべて相続税の課税対象
- 2500万円を超えた部分に対して、一律20%の贈与税がかかる
- 金額の大小にかかわらず、贈与をしたら毎回申告が必要
例えば
3000万円を贈与する場合の贈与税
(3000万円-2500万円)×20%=100万円
改正後
- 非課税枠は2500万円(特別控除)+年間110万円(基礎控除)
- 制度を選択した年以降の贈与財産は上記基礎控除額を引いた金額が相続税の課税対象
- 2500万円+110万円×贈与をした年数を超えた金額に対し、一律20%の贈与税がかかる
- その年の贈与額が基礎控除110万円以下の場合は、贈与税の申告が不要
例えば
- 1年で3000万円を贈与する場合
((3000万円-110万円×1年)-2500万円)×20%=78万円
相続税の課税対象額は、2890万円
- 5年(毎年600万円)を贈与する場合
((3000万円-110万円×5年)-2500万円)×20%=0円
相続税の課税対象額は、2450万円
上記の改正と同時に、暦年課税の制度にも以下の改正が入りました。
相続開始より3年以内の贈与が生前贈与として相続税の課税対象となっていたのが、相続開始より7年以内に拡大されることになりました。
これにより、相続時精算課税制度の利用が増えるのではないかと思います。
相続時精算課税制度 手続き期限
相続時精算課税制度を選択しようとする受贈者(子や孫)は、その制度の適用対象としたい最初の贈与を受けた年の「翌年2月1日から3月15日までの間」(贈与税の申告書の提出期間)に申請する必要があります。
必要な書類
相続時精算課税制度を選択する際には、次の書類を提出します。
- 贈与税の申告書
- 相続時精算課税制度選択届出書
- 受贈者と贈与者の「戸籍謄本」もしくは「戸籍抄本」
参考 国税庁
相続時精算課税制度 まとめ
相続時精算課税制度は改正がはいり、これから選択するケースが増えると思います。
典型的な選択した方が良いケースは、相続税の基礎控除の範囲内で収まっているのがもうわかっているケースです。
この場合は、大きな財産を一度に今生きているうちに下の世代に移すことができます。
このような検討は、相続税のシミュレーションなども必要になってきます。
自分のケースがどうなのか?これは専門家に聞くのが一番です。
千代田税理士法人では、相続税の試算も行っております。
その試算にもとづき、相続時精算課税の選択の有利不利も検証可能です。
気になりましたら一度ご相談ください。
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