遺言書 みなさん正しく知っている方はほとんどいないかと思います。
私が立ち会った相続の一つに、遺言書「的」なものが残されていたケースがありました。
亡くなった方の思いは、その遺言書「的」なものを読むとものすごく伝わりました。
しかし、その相続は、その残されていた遺言書「的」なもののために相続人の間で相当もめることとなりました。
この記事では、遺言書の種類から書き方、注意することを説明します。
この記事を読んで、相続人の間でもめることのないようにしていきましょう。
遺言書 遺書との違い
遺言書とは、民法に決められた、記載要件など厳格に決められたルールに則って作成されたものであり、法的な拘束力が認められています。
内容としては、だれにどの遺産を、どのように引き継ぐのかを記載します。
遺書とは、特に法的には決められたものではなく、家族などへの感謝などを記載したものが多く、特に法的拘束力を持つものではありません。
遺言書を、民法に決められたルールに則って記載していない場合は、法的拘束力のない、ただの遺書となってしまいます。
遺言書 メリット
遺言書を作成するメリットはいくつかあります。
- 相続人の負担を軽減する
- 相続人間のトラブルが防止できる
- 自分の意志で遺産を相続できる
これらが大きいと思います。
相続人の負担を軽減する
相続手続きの一番大変なところが、亡くなった方の相続財産を調査・確定し、それを相続人間で遺産分割協議を行い、だれが、どの遺産をどれだけ相続するかを決めなければいけないところなのです。
亡くなった方にどれだけ財産があるのか、借金をどれだけ抱えているのか、これは家族であったとしてもなかなか把握は難しいでしょう。
これをもれなく調査し、確定していかないといけないので、想像するだけでも大変な作業ということがわかるでしょう。
ネット証券や貸金庫、公衆用道路となっている土地の共有持ち分あたりは財産からもれることがよくありますので注意する必要があります。
また、相続人が複数いるとお互いがなるべく多くの財産を相続したいと思うため、遺産分割協議が長引くことがあります。これは相当精神的負荷も大きいですし相続人の大きな負担となります。
これらを解消するために、遺言書を作成し、財産目録をつけておけば、遺産の調査はかなり軽減されます。また、遺言書において、各相続人に何をどれだけ相続するかを指定しておくことで、遺産分割協議の精神的負荷はある程度避けることができるでしょう。
相続人間のトラブル防止
前述したように、相続人間ではお互いの主張がまとまらずに、争いになるケースも少なくありません。
遺言書で各自の相続分が決められていればこのようなトラブルは起きにくくなります。
また、前妻との間の子どもや婚姻関係のない間に生まれた子どもなど、家族の知らない相続人がいるなら、その相続分を明記しておくことで不要なトラブルもさけられます。
遺留分といわれる、それぞれの相続人が法律上最低限相続することができる割合が決められていますので、そちらは考慮する必要があります。
遺留分について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続 誰にも起こることだから、誰でもわかるように。 基礎編① 相続人とは
自分の意志で遺産を相続できる
遺言書を作成すれば、内縁の配偶者、お世話になった人など法定相続人以外にも遺贈することができます。
遺言書 種類について
遺言書の種類は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の三つの方式があります。
それぞれについて説明します。
自筆証書遺言
遺言者が書面で遺言の内容の全文、日付、氏名を自ら手書きし、署名の下に押印して作成する方式です。
自筆証書によって遺言をする場合でも,例外的に,自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになります。
自書によらない財産目録を添付する場合には,遺言者は,その財産目録の各頁に署名押印をしなければならないこととされています。
自筆証書遺言が法的な効力を発揮するためには、原則として家庭裁判所で開封・確認をする「検認」の手続きが必要です。
その後の相続手続きをする際には、「検認証明書」の提出を求められるケースがありますので注意しましょう。
ただし、自筆証書遺言書保管制度を利用し、法務局に保管した場合には検認が不要になります。
公正証書遺言
遺言者が、公証役場の公証人に遺言書の原案や相続財産の目録を渡し、それにもとづいて公証人が公正証書を作成する方式です。
公正証書遺言は家庭裁判所での検認を行う必要はありません。
秘密証書遺言
遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名・押印をして封印したまま公証人に提出する方式です。
秘密証書遺言はパソコンでの作成が認められています。
秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認が必要になります。
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言では、厳格な作成方式が民法により定められています。
ポイントは、財産目録以外の遺言内容の全文、日付、氏名を遺言者が直筆で書くことと押印することです。
(自筆証書遺言)
第968条コンメンタール民法
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
遺言内容、日付、氏名をパソコンで書いたり、家族に代筆してもらったり、押印を忘れたりすると無効になるので注意してください。
また、遺言内容を訂正する場合も厳格に決められています。
①訂正箇所に二重線を引く。加筆の場合は吹き出しを入れる。
②正しい文言を記入する。
③訂正箇所に押印する
④遺言書の末尾などに訂正した内容を記入する。
⑤それに署名する
この手続きに不備があると訂正内容は無効になるので注意が必要です。
この訂正方法は秘密証書遺言でも同じです。
遺言書の内容もわかりやすく記載しないとね!
遺言内容について、いくつか注意点があります。
まず、曖昧な表現を避けることです。
「ゆずる」「任せる」「引き継ぐ」などの表現は良くないです。
相続人に相続財産を渡す場合は「相続させる」
相続人以外の人に遺産を渡す場合は「遺贈する」
と書きましょう。
次に、遺産の内容やその所在は、正確かつ特定された記載をすることが肝心です。
預金であれば、「金融機関名」「支店名」「口座番号」は明記しましょう。
不動産であれば、土地と建物にわけ、登記簿謄本のとおりに記載しましょう。
遺言書記載例
遺言者〇〇は次の財産を、遺言者の妻 〇〇〇〇(1980年7月○○日生)に相続させる。
(1)土地
所在 千葉県松戸市〇〇
地番 〇〇番6
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
(2)建物
所在 千葉県松戸市〇〇
家屋番号 〇〇番6
種類 居宅
構造 木造二階建て
床面積 一階〇〇平方メートル
二階〇〇平方メートル
登記簿謄本のとおりに記載しましょう
(3)預貯金
〇〇銀行 松戸支店 口座番号1234567
令和5年○月○日
住所 千葉県松戸市〇〇
遺言者 〇〇〇〇 印
年号月日は正確に、住所は住民票のとおりに記載し、本名で署名し
、実印を押しておきましょう
自筆証書遺言書保管制度とは
遺言書の紛失や改ざんの防止、遺言者の死亡後に発見されないようなことの防止のために、2020年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。
これは、自筆証書遺言を法務局で、適正に管理・保管する新制度です。
この遺言書は、原本の他、画像データとしても長期間、管理・保管されます。
原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間管理・保管されます。
管理・保管されている遺言書は、遺言者の死亡後に相続人が遺言書保管所で閲覧できるようになります。
いくつかある利点の一つ目は、家庭裁判所での「検認」が不要になることです。
相続人は、法務局から「遺言書情報証明書」「遺言書保管事実証明書」をもらえば相続手続きを進められます。
二つ目は、「死亡時通知」といって、遺言者が亡くなったとき、遺言者が希望していれば、法務局から各相続人に遺言書があることを通知してもらえることです。
また、相続人の誰かが遺言書を閲覧したときには、ほかの相続人全員に「関係遺言書保管通知」が届きます。
ただし、注意点があります。
保管申請をする際に、遺言書が民法の定める方式にそっているかの形式的な確認は受けられますが、これは遺言書の内容が法的拘束力の有効性を保証するものではないということです。
保管手数料は、1通3,900円です。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場の公証人が作成し、公文書として扱われる遺言書です。
第三者が関与するため、自分で遺言書を作成する自筆証書遺言、秘密証書遺言とは、作り方が大きく違っています。
公正証書遺言の作成の流れを説明します。
遺言書 原案作成
遺言書の原案は、遺言者本人が作成しなければなりません。
相続財産の目録をまとめ、だれに、何を、どれだけ相続させるかを決めます。
必要書類の準備
公正証書遺言の必要書類は、遺言者の本人確認資料(印鑑証明書か身分証明書)、財産資料(銀行の預金通帳、証券会社の取引残高報告書、固定資産税の課税明細書など)、遺言者と相続人の関係がわかる戸籍謄本です。
また、法定相続人以外に遺産を渡す場合は、相手の住民票が必要になります。
遺言書 原案と必要書類を公証役場へ提出
公証役場に予約をとったうえで、遺言書の原案と必要書類を提出します。
公証人と打合せ
公証人と遺言書案の打ち合わせをします。遺言書に記載する遺産は正確であるかなどを綿密に調べ上げ、調整を重ねながら最終的な遺言書案をまとめていきます。
公正証書遺言の作成
作成当日は、証人二人以上と一緒に公証役場へ出向きます。
そして、公証人の立会いの下、遺言書の作成の手続きが進められます。
手続きの内容は、挨拶に始まり、口頭での本人確認や質問、遺言書の内容の読み上げ・承認、遺言書原本への署名・押印です。
遺言公正証書は原本、正本、謄本の三通が作られ、遺言者は正本と謄本を持ち帰ります。
公正証書遺言の当日は、公証人手数料を払わなければなりません。
手数料の金額は遺言に記載する財産の価額によって違います。
相続財産の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
200万円以下 | 7,000円 |
500万円以下 | 1万1,000円 |
1,000万円以下 | 1万7,000円 |
3,000万円以下 | 2万3,000円 |
5,000万円以下 | 2万9,000円 |
1億円以下 | 4万3,000円 |
3億円以下は5,000万円ごとに4万3,000円へ1万3,000円を加算、10億円以下は5,000万円ごとに9万5,000円へ1万1,000円を加算する。
10億円を超える場合は、24万9,000円に5,000万円ごとに8,000円を加算する。
財産の総額が1億円未満の場合は、1万1,000円加算する。
計算例
妻に1,000万円、長男に3,000万円相続させる遺言書の手数料
17,000円+23,000円+11,000円=51,000円
公正証書遺言の証人はだれ?
公正証書遺言の証人には厳しい決まりがあります。
遺言者の家族や親族、公証人の配偶者や親族、遺贈を受ける人、未成年者は公正証書遺言の証人にはなれません。
証人を頼める人がいない場合は、日当が必要になりますが、公証役場に依頼すれば手配してもらえます。
税理士が証人になるケースも多いです。
遺言書 まとめ 結局どの方式が良いのか?
遺言書の方式には三つありましたが、秘密証書遺言は承認を二人立て合わせて公証役場で認証の手続きをする必要があるほか、家庭裁判所での検認作業も必要となります。
また、書面に不備があると無効になってしまうなど、あまりおすすめの方式ではないかと言えます。
遺言書は法的な効力を持たせることがとりわけ重要になるので、公証人が作成する公正証書遺言なら不備がなく確実といえるでしょう。
一方、自筆証書遺言の利点は、手数料が安く、証人が不要であることです。
お金をかけたくない人、遺言内容を知られたくない人は自筆証書遺言が適しています。
千代田税理士法人でも、相続税の試算から遺言書作成のサポート、公正証書遺言での証人、遺言書の保管などの相続支援もおこなっております。
相続について少しでも疑問に思うことがありましたら、いつでもご連絡ください。
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